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民法の中でも、特にに重要といわれるのが「意思表示」に関するルールです。
契約は「相手に伝わる意思表示」があることで成立するため、意思表示の理解は法律学習の基礎になります。
この記事では、民法における意思表示(心裡留保/通謀虚偽表示/錯誤/詐欺/強迫)について分かりやすく解説します。
意思表示とは?

意思表示とは「法律効果を発生させるための意思を外部に表現する行為」のことです。
ちょっと難しいですね。ただそんなに難しく考える必要はありません。
例えば、契約をしたい、やめたい、解除したい、売りたい、買いたいなど、僕たちは普段何気なく意思表示をしています。
意思表示を相手に伝えるまでの流れは、以下の流れになります。
①意思(「パンを買おう」と心の中で思うこと) → ②意思表示(「買いたいです」と実際にお店の人に伝えること)
①の「意思」に問題があるときに「心裡留保、虚偽表示、錯誤」の話が出てきて、②の「意思表示」に問題があるときに「詐欺、強迫」の話が出てきます。
これが理解できると、民法の意思表示はとてもよく分かるようになります。
では、心裡留保から順番に説明していきます。
心裡留保(しんりりゅうほ)とは?【第93条】

民法第93条(心裡留保)
1 意思表示は、表意者がその真意ではないことを知ってしたときであっても、そのためにその効力を妨げられない。ただし、相手方がその意思表示が表意者の真意ではないことを知り、又は知ることができたときは、その意思表示は、無効とする。
2 前項ただし書の規定による意思表示の無効は、善意の第三者に対抗することができない。
心裡留保は、簡単に言うと「冗談」についての規定です。
例えば、自分が車を売る気がないのに「この車を売るよ」と冗談で相手に言ったとします。
この契約は有効になります。当然、それを信じた相手方は保護されるべきだからです。(1項本文)
しかし、相手がそれを「冗談だ」と知っていたり、気づくべき事情があった場合は無効になります。(1項ただし書き)
このような場合には、相手を保護する必要がないからですね。
だけど、その無効であるという事情を知らない第三者には「冗談だから無効」だと主張できないということです。(2項)
当たり前です。
この場合は事情を知らない(何も悪くない)第三者を保護しなければならないからです。
※赤のマーカーは「結論」、青のマーカーは「理由」を示しています。以下の文章も同じ。
通謀虚偽表示とは?【第94条】

民法第94条(虚偽表示)
1 相手方と通じてした虚偽の意思表示は、無効とする。
2 前項の規定による意思表示の無効は、善意の第三者に対抗することができない。
通謀虚偽表示は、簡単に言うと「グル」についての規定です。
例えば、自分が借金を抱えており、財産を差し押さえられそうになっているとします。
そこで友達に相談し、「本当は売らないけれど、土地を友達に売ったことにしておこう」と、示し合わせて嘘の売買契約書を作成しました。
この行為は無効です。(1項)
なぜなら、その友達も虚偽の意思表示だと知っているので無効にしても問題ないからです。
しかし、その虚偽の意思表示による無効を知らない第三者に対しては、その無効を主張することができません。(2項)
何も知らない第三者はその売買契約を信じて土地を購入したのに、実は虚偽表示なので無効でした~なんて言われたら、第三者はたまったもんじゃないでしょう。
錯誤とは?【第95条】

民法第95条(錯誤)
1 意思表示は、次に掲げる錯誤に基づくものであって、その錯誤が法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものであるときは、取り消すことができる。
一 意思表示に対応する意思を欠く錯誤
二 表意者が法律行為の基礎とした事情についてのその認識が真実に反する錯誤
2 前項第二号の規定による意思表示の取消しは、その事情が法律行為の基礎とされていることが表示されていたときに限り、することができる。
3 錯誤が表意者の重大な過失によるものであった場合には、次に掲げる場合を除き、第一項の規定による意思表示の取消しをすることができない。
一 相手方が表意者に錯誤があることを知り、又は重大な過失によって知らなかったとき。
二 相手方が表意者と同一の錯誤に陥っていたとき。
4 第一項の規定による意思表示の取消しは、善意でかつ過失がない第三者に対抗することができない。
錯誤は、簡単に言うと「間違えちゃった」についての規定です。
例えば、メロンパンを買うつもり でパン屋に行きました。
棚に並んだパンを見て、「これがメロンパンだ」と思い込み、店員に指さして購入。
しかし、実際は カレーパンだった。
この場合、あなたの表示(買います)は「メロンパンを買う意思」と対応していません。
そして、法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものであるため、取消しができます。(1項1号)
また、「このパンは今日焼いた新作パン」と思い込み、その 考え(動機)を店員にも伝えて、購入しました。
しかし、実際は前日の売れ残りで「新作」ではなかった。
認識(新作である)が真実に反しており、その認識が重要なものになっていた場合、錯誤となり取消しができます。(1項2号)
これは、「動機の錯誤」と言われるものです。
注意点としては、この動機を相手に伝えることが必要です。(2項)
上記の事例では、相手にその動機を定員に伝えているため、動機の錯誤として取り消しが認められます。
以上の錯誤による取り消し(1項1号及び2号)は「カレーパン」と大きくラベルが貼ってあり、形も匂いも明らかにカレーパン。
それにもかかわらず、全く確認せず「メロンパンだ」と思い込んで購入した場合、これは重大な不注意(重大な過失)となり、原則として取消しできません。(3項本文)
ただし店員が「この人、カレーパンをメロンパンだと思ってるな」と気づいていた、または気づくべきだった場合や(3項1号)
店員も本気で「このパンはメロンパンだ」と思っていた場合 は 取消しができます。(3項2号)
また、カレーパンをメロンパンと勘違いして買った後すぐ、あなたがそのパンを他の人に売ったとします。
その後「錯誤だったので取り消します」と言ったとしても、
他の人が錯誤(勘違いの事情)を知らず、善意かつ過失もなかった場合には、取り消しを主張できません。(4項)
第三者の取引の安全を守るためのルールです。
詐欺とは?【第96条】

民法第96条(詐欺又は強迫)
1 詐欺又は強迫による意思表示は、取り消すことができる。
2 相手方に対する意思表示について第三者が詐欺を行った場合においては、相手方がその事実を知り、又は知ることができたときに限り、その意思表示を取り消すことができる
3 前二項の規定による詐欺による意思表示の取消しは、善意でかつ過失がない第三者に対抗することができない。
詐欺は簡単に言うと、「ダマし」についての規定です。
例えば、相手の嘘によって契約をさせられたら、その契約は後から取り消すことができます。(1項)
また、周りの第三者の嘘が原因で契約してしまったなら、相手方がその事実を知っていたとき又は知ることができたときに限り、取り消すことができます。(2項)
なぜなら、第三者の嘘によって契約された本人も保護するべきですが、何も知らない相手方が契約を取り消されるのはあまりにかわいそうだからです。
詐欺で取り消しができるケースでも、あとから契約に関係しない別の第三者が「だまされていたこと」を知らずに権利を取得してしまった場合は、
その人に対して「取り消したから無効です」と主張できません。
本人も保護すべきですが、この場合は「善意かつ無過失」を条件に第三者を保護すべきとしています。(3項)
強迫とは?

民法第96条(詐欺又は強迫)
1 詐欺又は強迫による意思表示は、取り消すことができる。
2 相手方に対する意思表示について第三者が詐欺を行った場合においては、相手方がその事実を知り、又は知ることができたときに限り、その意思表示を取り消すことができる
3 前二項の規定による詐欺による意思表示の取消しは、善意でかつ過失がない第三者に対抗することができない。
強迫は簡単に言うと、「脅し」についての規定です。
例えば、「契約しないとひどい目に遭うぞ」と脅されて契約させられた場合、
本人はその契約を後から取り消すことができます。(1項)
強迫については、第96条第2項及び第3項の規定がないので、第三者の強迫の場合には相手方が善意でも取り消せますし、善意の第三者に強迫による取り消しを主張することができます。
強迫された場合の保護は手厚くすべきだからです。
まとめ(比較表)
| 意思表示 | 本人の責任 | 第三者の保護されるための条件 |
| 心裡留保 | 大 | 善意 |
| 通謀虚偽表示 | 大 | 善意 |
| 錯誤 | 小 | 善意無過失 |
| 詐欺 | 小 | 善意無過失 |
| 強迫 | なし | 保護されない |
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